【開催報告・名駅】『羊と鋼の森』(宮下 奈都)|名古屋で朝活!!朝活@NGO
名駅の朝食読書会は「ベストセラー・話題の書」を中心に課題本をセレクト。9月は本屋大賞受賞作で映画化もされた『羊と鋼の森』(宮下奈都)が課題でした。今回は6名で開催。
タイトルの『羊と鋼の森』とは、ピアノそのもののこと。「羊」は、ハンマーのフェルト、「鋼」はピアノの弦、「森」はピアノのボディの木。そして、「森」とはまた主人公である外村の生まれ育った「森」、音楽の世界で自分の道を迷う「森」でもあります。
高校生だった外村は、ピアノの調律師に出会い、自分も調律師を目指します。ピアノの経験もなく、調律師としての自分になかなか自信を持てませんが、職場の個性的な先輩や、双子の女子高生をはじめさまざまな人と調律を通して関わるうちに、自分なりの「森の歩き方」を見つけ始めるという成長譚。ピアノの持つ美しさや優しさが溢れるような青春小説です。
彼が最初に出会った調律師、板鳥は、その目指す音について尋ねられた時、原民喜の文体論を借りてこう表現します。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
外村の静かで控えめながら秘めた情熱が伝わるまっすぐな人柄や、周りの先輩調律師、ピアノを弾く双子の女子高生、いろんな客とのエピソードがどれも優しくて、読後感がとても清々しいです。
面倒見のいい先輩、柳の
「でもさ、俺たちが探すのは440ヘルツかもしれないけど、お客さんが求めているのは440ヘルツじゃない。美しいラなんだよ」
も印象的。調律師はもちろん、音楽やピアノに興味がなくても、仕事に対する真摯な思いに引き込まれると思います。
森に近道はない。自分の技術を磨きながら一歩ずつ進んでいくしかない。
だけど、ときおり願ってしまう。奇跡の耳が、奇跡の指が、僕に備わっていないか。或る日突然それが開花しないか。思い描いたピアノの音をすぐさまこの手でつくり出すことができたら、どんなに素晴らしいだろう。目指す場所ははるか遠いあの森だ。そこへ一足飛びに行けたなら。
「でもやっぱり、無駄なことって、実は、ないような気がするんです」
とても読みやすくて、温かい気持ちになれる一冊です。文庫にもなっていますので、ぜひピアノ曲を聴きながらどうぞ。
- アーティスト: 辻井伸行、菊池洋子、江崎昌子、外山啓介、山本貴志、及川浩治
- 出版社/メーカー: avex CLASSICS
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: CD
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