【開催報告・伏見】朝食読書会 『忘れられた巨人』(カズオ・イシグロ)|名古屋で朝活!!朝活@NGO
今朝の朝食読書会はノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』が課題でした。朝活では2015年に続いて2度目ですね。
6世紀くらいのイングランドが舞台、つまり伝説のアーサー王が亡くなったあとの物語という設定で、「騎士」はもちろん「鬼」「竜退治」「魔法」など古典的なファンタジー小説の要素もごく自然に登場します。アーサー王物語の知識がなくても理解には困りませんが、「ガウェイン」「マーリン」などは伝説でも主要な登場人物なので、副読本にはおすすめです。
『忘れられた巨人』のメインテーマは「記憶の功罪」、これは極めて普遍的なテーマであり、現代的なものだと感じました。いなくなった息子を探す老夫婦の愛情を軸に、民族同士の対立、宗教、歴史の捉え方など、現代の国際社会の課題も浮かんでくる重層的な作品です。
ストーリーについては、ネタばれになるので割愛。アマゾンでは
アクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村を後にする。若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士……さまざまな人々に出会いながら、雨が降る荒れ野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅するふたりを待つものとは――。
失われた記憶や愛、戦いと復讐のこだまを静謐に描く、ブッカー賞作家の傑作長篇。
と紹介されています。
幸せな記憶とともに、思い出すのもつらい記憶がある老夫婦は、ラストシーンでどうなるのか。徐々に2人の過去、特にアクセルが何者かが明らかになっていって、この物語の大きなキーになっています。特に最後の数行は、解釈が分かれるのですが、再読して、さらに新しい解釈が見つかりました。
物語の背景として描かれる「民族同士の争いの歴史」は、忘れてしまった方がよいのか、直視して正義の復讐を行うべきなのか。勝者は忘れようとし、敗者はいつまでも復讐を忘れない。現代でも答えの出ない重い課題です。
「島」や「巨人」のメタファーは何なのか?修道院での争いの意味は?ガウェインとウィスタンの役割は?さらにはアクセルの過去は?読み進めると登場人物の記憶と同様に、読み手の僕らもストーリーの輪郭がはっきりとしてきて、あらためて深い作品だなと。
戦争について、カズオ・イシグロ作品では何度も小説の背景として扱われていますが、今回は特に個人を超えた民族・国という単位での課題も深く掘り下げていて、そういう意味でも新境地では。カズオ・イシグロのノーベル賞受賞の理由がよくわかる一冊です。