【開催報告】『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』(金成 隆一)
名駅の朝食読書会は「ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』 (岩波新書・金成 隆一)が課題でした。
2016年アメリカ大統領選挙は、予想を覆す結果となりました。選挙戦を通じて、両候補の誹謗中傷、ネガティブキャンペーンも話題となりました。
私は、トランプではなく、問題だらけのトランプを支持してしまう現代アメリカに興味があった。あんな変な候補を支持する人は何を考えているのか?どんな暮らしぶりで、日本人の私にどんな話をするのか?(「おわりに」より)
本書は、2016年大統領選を通じて、トランプの支持者にインタビューを重ねることで、現代のアメリカが抱える課題を浮き彫りします。 日本と重なる部分も見えてきました。
管理人の読書メモ
P.4 遊説先は、ほとんど田舎だ。仮に都会の近くでも、集合場所は郊外。彼は地方をしっかり回っている。自分の訴えが、どこの人々に響くのかを理解している証拠だ。
P.22 私が子どもの頃、ここは何もない人でも、良い給料の仕事を見つけることができる町だった。スキル不要、学歴不要。きちんと働きさえすれば、一人前に稼ぎ、家族を養い、マイホームと自家用車を購入できた。つまり、アメリカンドリームを実現できた。だが、その後にこの一帯では、主要産業の衰退、廃業、海外移転、合併など、起きてほしくないことは何でも起きた。
P.52 トランプにはカネがあり、普通の政治家と違って、特定の業界団体の献金をアテにせず、言いたいことを自由に言える。
P.95 でもね、この地域のためにできることなんて、誰が大統領になってもほとんどない。だったら、トランプみたいな男に4年間限定でやらせてみるのもいいんじゃないかと。一度やらせてみて、何ができるかを見てみたいという気持ちだ。
P.109 弁護士、大統領ファーストレディー、上院議員、国務長官、誰もが羨むキャリアを積み、常にスポットライトを浴び続けた人間には、庶民の気持ちなどわからない。クリントンへの、そんな憤りが蔓延していた。
P.176 「若者が学校で聖書を学ばなくなり、勤労意欲が落ちた」「若者が働かず、(納税せず)社会のフリーライダー(ただ乗り)になっている」「福祉依存が当たり前になり、ちょうだいちょうだいと言えば生きていける社会になってしまった」
P.212 調査によると、1940年生まれの世代が親より裕福になる確率は約92%だった。(中略)今の30代半ばの世代で、親より豊かになれるのは半分ということになる。
P.223 直前にトランプ陣営は支持者にアンケートを送った。(中略)支持者が聞きたいことを調べ、限られた時間内で訴える。「指導者として言うべきこと」よりも「支持者が聞きたがっていること」を話そうとする姿勢の表れではないか。顧客サービスのようだ。
感想など
「政治家の既得権益」を感じさせるヒラリー候補への悪印象、とにかく現状を変えてくれそうな期待感、移民や海外への生産施設移転などのグローバリズムへの反感、良くも悪くもメディアへの露出度の高さなど、政策論ではない部分でトランプ候補に有利に働いた要素が、地方の「かつての中流層」を中心に多く語られています。
インタビューを受けた方々の写真が多く掲載されていますが、80年代の写真と言われても分からないような服装、建物、風景が多く、そうしたビジュアルからも停滞した地方の様子がよく伝わってきます。
日本の地方都市とも重なる部分も多く、政治論にとどまらす、話の尽きない本でした。