【開催報告・名駅】『騎士団長殺し(第1部・第2部)』村上春樹
4月の名駅は村上春樹の長編としては7年ぶりとなる新作『騎士団長殺し』が課題でした。
管理人の読書メモ
【第1部】
P.304 つまり我々の人生においては、現実と非現実との境目がうまくうかめなくなってしまうことが往々にしてある、ということです。その境目はどうやら常に行ったり来たりしているように見えます。その日の気分次第で勝手に移動する国境線のように。その動きによほど注意していなくてはいけない。そうしないと自分が今どちら側にいつのかがわからなくなってしまいます。
P.449 歴史の中には、そのまま暗闇に置いておった方がよろしいこともうんとある。正しい知識が人を豊かにするとは限らんぜ。客観が主観を凌駕するとは限らんぜ。事実が妄想を吹き消すとは限らんぜ。
【第2部】
P.21 ここにあるのが善い力なのか、善くない力なのか、それはわからない。そのときによって善くなったり、悪くなったりするのかもしれない。ほら、見る角度によっていろいろちがって見えてくるものみたいに。
P.100 しかし人の首を刎ねるのに馴れることができる人間は少なからずいるはずだ。人は多くのものごとに馴れていくものだ。とくに極限に近い状態に置かれれば。意外なほどあっさり馴れてしまうかもしれない。
P.485 免色くん自身はべつに邪悪な人間というわけではあらない。むしろひとより高い能力を持つ、まっとうな人物といってもよろしい。そこには高潔な部分さえうかがえなくはない。しかしそれと同時に、彼の心の中にはとくべつなスペースのようなものがあって、それが結果的に、普通ではないもの、危険なものを呼び込む可能性を持っている。それが問題になる。
P.525 私が生きているのはもちろん私の人生であるわけだけど、でもそこで起こることのほとんどは、私とは関係のない場所で勝手に決められて、勝手に進められているかもしれないって。つまり、私はこうして自由意思みたいなものを持って生きているようだけれど、結局のところ私自身は大事なことは何ひとつ選んでいないのかもしれない。
感想など
本作でも、村上春樹の長篇ではくり返し出て来るモチーフがふんだんに盛り込まれていて、「三十代の男性」が主人公で「喪失からのスタート」であり、「ミステリアスな登場人物」に、「人ですらないキャラクター」が加わり、「異界に通じる穴」を通過するストーリー展開。特に身長60センチの「騎士団長」の姿を借りた「イデア」や、情報のメタファーともとれる「免色」など、ユニークなキャラクターばかりです。
たとえば「免色」については、明らかにフィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』を下敷きに使った設定。しかも、グーグルで検索してみると、「免」と「色」の漢字の成り立ちについて、こんなブログが。
<漢字の語源を一緒に学ぼう>『漢字を感じる「色・免」』
色を辞書で調べてみると、男女間の情欲。顔かたちの美しさ。つや。いろどり。しゅるい。ひざまづいてる人の上に人がのるさまで、男女間の営みを表しています。
免の方は、まぬがれるという意味があります。古代文字で書くと、女性の股から羊水がでてきて、子供が産まれる様子を表しています。子供が産まれ、産みの苦しみから解放されたという意味からきているそうです。
2011年の記事みたいですが、偶然ですかね。「男女の営み」に「子供が産まれる様子」ですよ。村上春樹は、こうした言葉遊び、アナグラムの類で分析されることが多くて、この漢字の成り立ちは知っていたのかもしれません。
これまでも、作品の読み方、謎解き本が出版されてきていて、本作でも早速予定されています。
もうすぐ発売らしいので、さっそく予約。こちらも読んでみようと思います。