【開催報告】『人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長』(吉川 洋)
人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長 (中公新書)
- 作者: 吉川洋
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/08/18
- メディア: 新書
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今月の栄は『人口と日本経済』が課題でした。
人口減少、とりわけ「労働力人口の減少」が社会問題化して久しく、日本経済に影を落としている印象ですが、そうした「人口減少ペシミズム」に異を唱える一冊です。
管理人の読書メモ
P.1 2012年1月に公表された国立社会保障・人工問題研究所の将来推計人口(出生中位)によると、日本の人口は2110年に4,286万人になる。
P.53 人工減少と並んで、著しい速度で進行しているのが「高齢化」だ。日本は1970年に高齢化率(総人口のうち65歳以上が占める割合)が7%を超えて「高齢化社会」となったが、その後1994年には14%を超え「高齢社会」となり、さらに2007年に21%を超え、ついに世界で初めて「超高齢社会」となった。
P.73 明治の初めから今日まで150年間、経済成長と人口はほとんど関係ない、と言ってよいほどに両者は乖離している。
P.79 高度成長は、労働生産性の伸びによってもたらされたものなのである。
P.132 100年前にブレンターノが発見したように、先進国では豊かさの中で人口が減り始めた。その一方で、寿命は著しく延び始めた。
P.159 先進国経済で成長を生み出す源泉は、当然のことながら、高い需要の成長を享受する新しいモノやサービスの誕生、つまり「プロダクト・イノベーション」である。
P.188 かつては家計が貯蓄し、企業は負の貯蓄、つまり借金して投資をしていた。企業は時代が変わったと言う。しかし変わったのは、時代ではなく、企業だ。(中略)日本経済の将来は、日本の企業がいかに「人口減少ペシミズム」を克服するか、にかかっているのである。
感想など
著者の主張をまとめると
・過去100年あまりの日本の人口と実質GDPの推移をみると、人口と経済成長の間にさほどの関連性はない。・国の財政という点では、公債/GDP比率が200%を超える日本の財政は健全とは言えない。・ただし、経済成長については、人口ではなく、IT技術やAI、IoTに代表されるイノベーションを利用した生産性向上こそが、経済成長率と高めるポイントである。
, 少子高齢化は、社会保障などの点からみれば課題だが、経済成長という点では「生産性」こそが鍵を握るという論点です。
財政という点では、ディスカッションでも自治体ごとの財政の開きが話題で、70ページに掲載されているこの100年の都市別人口の推移表によれば、1878年の5位は金沢(1985年では31位)、9位が富山(1985年では55位)など、特に日本海側の港湾都市における人口の伸びの鈍化が目につきます。工業化に伴って、太平洋側と日本海側の格差の拡がりがよく分かる表かと。
生産性を上げやすい分野では価格が下落する傾向にある、という指摘も本書にあり、いかに独自の付加価値を上げるかが製造業・サービス業ともにこれからの課題であり、逆に言えば伸びしろであると感じました。自治体で言っても、情報網・物流網がともに発達した今日、いかに魅力ある都市づくりをするのか、工夫の余地は大きいのでは。ポジティブな日本経済論、おすすめです。