【開催報告】『人はなぜ戦争をするのか エトスとタナトス』(S.フロイト) |名古屋で朝活!!朝活@NGO
人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)
- 作者: フロイト,中山元
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/02/07
- メディア: 文庫
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今朝の朝食読書会は『人はなぜ戦争をするのか エトスとタナトス』(S.フロイト)が課題でした。精神分析学者フロイトが、アインシュタインの「人間には戦争せざるをえない攻撃衝動があるのではないかという問いに答えた表題の書簡」を軸に、5つの論文・講義録が収録されています。
管理人の読書メモ
P.20 戦争は大きな統一を作り出すことができます。そして統一された領土を支配する強力で中央集権的な支配者が、その後は戦争を起きないようにすることもできるのです。
P.22 共同体を構成するには二つの条件が必要です。暴力による強制と、成員の感情的な結びつきです。
P.23 法とはもともとむき出しの暴力だったこと、現在でも暴力による支えを必要としていることを忘れてはならないのです。
P.24 わたしたちは、人間の欲動には二種類のものしかないと考えています。一つは、生を統一し、保存しようとする欲動です。(中略)もう一つの欲動は、破壊し、殺害しようとする欲動で、これを攻撃欲動や破壊欲動と総称しています。
P.25 場合によっては欲動の目標を実現するには、これらが混ざり合う必要があります。たとえば自己保存欲動はエロス的な性格のものですが、この欲動がみずからの意図を貫徹しようとすれば、どうしても攻撃欲動を活用しなければならなくなります。対象に向けられる愛の欲動は、そもそも対象を自分のものにするには、支配欲動を必要とするのです。
P.30 それにあなた(アインシュタイン)が指摘しておられるように、人間の攻撃的な傾向を完全に消滅させることを目指すべきではないのです。その欲動を別の場所に向けて、戦争においてその表現をみいださないようにすればよいのですから。
P.31 人間のあいだに感情的な絆を作り出すものは何でも、戦争を防ぐ役割を果たすはずです。(中略)第一の絆は、愛する対象との絆です。(中略)感情的な結びつきを強める第二の絆は同一化です。人間のあいだに大きな共通性を作り出すものは何でも、こうした一体感を、同一化を生み出すのです。
P.37 心理学的な観点からすると、文化には次の二つの重要な特徴があります。一つは知性の力が強くなり、欲動をコントロールし始めたことです。もう一つは攻撃的な欲動が主体の内部に向かうようになり、これがさまざまな好ましい結果をもたらすとともに、危険な結果をもたらしていることです。
(すべて書簡『人はなぜ戦争をするのか』より)
感想など
近代的な理性を確立した時代や国家であっても、戦争を起こしてしまうのはなぜか。精神分析学者の立場からフロイトが答えた書簡ですが、本書にはそれを補うような論考、講演録も併せて収録されています。
攻撃欲動について、「不安と欲動の生」ではこのようにも語っています。
P.249 共同生活にたいする攻撃欲動を制限することは、社会が個人に要求する最初の犠牲であり、おそらくもっとも困難な犠牲なのです。
書簡の『人はなぜ戦争をするのか』は、人間の本質を冷徹な視点で解明しようとしたフロイトの、思想の一端にふれることができる分かりやすい文書だと思います。時代は変わって21世紀になっても、地域紛争やテロの脅威は無くなることはなく、本書はそれに大きな示唆を与えてくれるものです。
講談社からは、アインシュタインの問いかけの書簡も収録されたものが出版されています。ご参考まで。